インドには「カレー」が無い!

元々インドに「カレー」は存在しなかった。これは割と本当だったりする。
正確には、カレーという概念や言葉が無かった。
インドでは、ほとんどの料理にスパイスが使われていて、野菜も肉も魚も、食材はスパイスで味付けして食べるのが普通。
ちょうど、一昔前まで日本ではほとんどの料理を、醤油か味噌で味付けしていたようなもんだろう。
日本でも醤油味の料理を総称するようなものは無くて、それぞれの料理が「煮っころがし」とか「すきやき」とかの名前が付いている別物の料理だけど、インドのカレーも本来はその感覚に近い。
それぞれの食材を”スパイス”で調理した、別物の料理っていう感覚。
だから、各々の料理に名前はあっても、それをひとまとめにした「カレー」なんて言葉は元々存在しなかった。
ところが、西洋人が初めてインドに来た時、現地の人が食べている物を見て、何か自分達の食文化とあまりにも違うのでびっくりしてしまった。
そして、とりあえずどの料理もスパイシーな味付けで似たようなもんに見えてしまったので、ひとまとめにして「カレー」などという呼び名をつけてしまった、ということらしい。
それで、ヨーロッパに帰って「インドのやつらはこんなもんを食ってまっせ」とか報告して、「それは何という食い物だ?」「えーと、なんかカレーとか言うてましたわ」というやりとりがあったかどうかは知らないけど、そんなこんなで結局インド料理はぜんぶカレーという事になってしまって、カレーという言葉が世界に広まってしまった。
例えば和食を全部ひっくるめて勝手に名前をつけられたみたいな乱暴な話で、インド人にとってみれば大きなお世話だ。
今ではインド人もカレーという言葉は使うらしいけど、それはヨーロッパから逆輸入されたフレーズなんだとか。
なんとも複雑な事態だ。
カレーという言葉の語源も色々な説があるけど、ようは現地のそれっぽい言葉を聞いて、勘違いだか何だかわからないうちに、とにかくそういう名前になってしまった、ということらしい。
まあ、ありがちな話と言えなくもないけど。
一説によると汁を意味する「カリ」という言葉が語源だと言う説もあるが、このへんはいろんな説があって何ともいえないところだそうだ。